Samhain(サオイン)物語

太尾和子

• 似たもの同士の再会

1988年にコロラドからカリフォル ニアに転居して間もなくの頃、私はある学校の一角で、棄て猫を見つけました。今でこそ18歳 にもなり、私のコンパニオンでありこのサオインは、恐ろしく独立心が強く、独りでいることを好み、常に自分の限界や境界線をはっきりと表明するメス猫で す。彼女は自分の人生を、静かにしかし明確な意思を持ちながら送っています。 彼 女と生活を始めてしばらくたった頃、私はサオインがどこか自分と似ていて、まるで以前から知り合いであったかのような感覚を持ち始めました。私は彼女に 「前世のどこかで、私と会ったことない?」とたずねました。すると彼女は「ええ。私はオレンジ色をした猫でしたよ。あなたが小学生だったときに日本で拾わ れました」と答えたのです。

• 束の間の同居生活

幼少の頃、私は1匹の猫を飼っていました。母が猫好きではないことを知りながらも、それは私にとってかけがえのないものでした。生まれて初めて好きになっ た動物といえば猫で、何時間もの間、一緒にかくれんぼをして遊んでくれる相手でした。母の反対にあっているにもかかわらず、私はどうしても猫が欲しくて、 ある日1匹のオレンジ色の猫を家へ連れ帰りました。母と私の関係はかなり緊迫しましたが、私の兄や姉たちもその猫が好きになってしまったため、母は仕方な く飼うことを許してくれました。しかし数ヶ月が過ぎると、その猫は突然姿を消してしまったのです。探して、探して、あちこち歩きましたが、ついにその姿を 見つけることはできませんでした。私はとても悲しくなり、それからは大人になるまでの間、猫を飼うことはしませんでした。

私はサオインに、「なぜあの家からいなくなったの?」とたずねました。すると彼女は「あの家にはとても緊迫した空気があって、私がいなくなったほうがみんなのためになると思った」というのです。彼女は家を出た後、外の家を見つけてそこで暮らしていたといいます。

• メッセージを送るサオイン

サ オインはその後も、緊迫した情況が起こると家を出る、ということを繰り返していました。彼女は独りでいるのが好きで、ほかの猫とは決して快適にう まくはやっていきません。サオインがまだ小さかった頃、彼女は家を出たら数日間は帰ってこないということがよくありました。私はそのたびにサオインの出か ける遠い川のそばまで歩いていっては連れ戻し、家で再び食事を取らせるようにしていました。

ある冬のこと。彼女は6カ月もの間姿を消 したことがあります。私はまた「彼女を失ってしまった!」と思いました。が、私が新しい家へ引越しをするた めに荷物を整理し始ていたとき、サオインが木の陰からこちらをのぞいていることに気づきました。彼女はこの間、ハンティングだけで生き延びていたのです。 そのときは食べ物で少しずつ彼女の気を引き、なんとか彼女を抱きかかえることができ、やがて新しい家へと連れだっていくことができました。

後にサオインは、その冬に家から離れていった理由を語ってくれました。彼女曰く、「あの時は、あなたがまず自分のことを大切にすることが必要、と伝えたかった」といいます。彼女は、私がそのときに抱えていた家庭内の問題を知っていたのでした。

 

• 猫嫌いだったあの母とサオインの同居生活

数 年前、私の年老いた母が私と同居するために、バージニア州の姉の家からやってきました。彼女は私が多くの猫たちと長い間一緒に住み、コンパニオン シップを持ってきたことを理解していましたが、サオインと同居させられるとは思わなかったでしょう。サオインは当時、ほかの猫たちとはスペースをシェアし たがってはいなかったので、ひとり別室に暮らしていましたが、私はそこへ母を同居させることにしたのです。もしこの同居がうまくいかなかったとしたら、母 が出て行くことになると、私は決めていました。なぜならここは私の家であり、家族である猫たちみなを一緒に面倒見ることを、心に決めていたからです。

し かし驚いたことに、私の母は少しずつサオインを理解し、またそのままの彼女を尊重し始めていきました。少しずつではありましたが、確実にこの猫は 母の心に近づいていき、そして寝床まで一緒にするようになりました。それからというもの、サオインは母の顔のすぐ脇で眠るようになりました。母もしばしば 独りでいるときがあり、コンパニオンがいると心地よかったのでしょう。母の猫友だちはそんな母に対して、とても忍耐強かったといえます。現在95歳になる 母と18歳になる猫は、よく一緒に居て、ソファで隣り合わせに座ってテレビを見たりしています。 

• サオインから学んだレッスン

サ オインは、私と母との関係を新しいレベルに引き上げてくれる、大きな原動力です。私と母はこれまで、常に難しい関係にありました。それはまるで、 お互いがお互いを知らず、信頼することができなかったかのように感じられました。私には、私たちの長年の、感情的な痛みを忘れることはできなかったので す。しかしながらサオインは---まだ関係が浅かった頃に私のもとを離れた猫ですが--- 今や私に「許すこと」「解き放つこと」を教えているのです。その静かで、純粋で、明らかな方法によって、サオインは、私が母のことを許し始める手助けをし てくれているのです。さらには「母はもともと自分自身でもっていないものは、与えられない」ということが理解できるようになったのも、サオインのおかげな のです。私は人生のこの時点でやっと、サオインの教えてくれたそれらのレッスンを消化できているのです。

以下は、サオインが私に語ってくれたアドバイスです。彼女の語りそのままにご紹介します。

あなたがお母さんとの間で持っている葛藤は、あなたから非常にたくさんのエネルギーを取り去ってしまっています。あなたはその葛藤を解き放たなくてはいけないのです。あらゆる痛みも解き放ちなさい。今、彼女はそれほど大きく変わりはしないのです。

あ なたははっきりと自分の立場に立って、彼女に自分がどのように感じているのかを知らせる必要があります。でもその後は、彼女を自由にしておくので す。もし今、小さな子供があなたに何か無礼なことをいったら、あなたはそれを個人的に受け取ってしまうの? あなたのお母さんは、子供のようになっています。彼女とけんかしすぎないことが、あなた自身のためであり、良いことなのです。あなたの時間とエネルギーの 無駄なのです。要は、彼女があなたのことをどう感じているのかは、彼女の細胞レベルの深いところにある、ということ。あなたが今、彼女を変えることはでき ないのです。多少はできるとしても、すべては無理。だから彼女とけんかするのは、負けの原因を作るだけなのです。

サオイン、あなたは母があなたのスペースを侵害すると、はっきりとそれを表してましたね。

     はい。私には彼女の信念を変えることはできないけれど、それで私をひどく扱ってもいいということではないのです。 自分の魂に従って、生命を生きると主張しなさい。ただその際、あなたの過去が痛んでいることと、あなたの今の境界線を明確に定義することとは、分けなけれ ばなりません。

    あなたがこれまでに達成してきたことをよく考えて。あなたは、よくやってきたではありませんか。あなたは自分 に何ができるのか知っていま す。どうして95歳の老いた女性に、あなたの心をかき乱させるの? もっと心を広くして。あなたのエネルギーと魂はとてつもなく大きく、あなたとお母さんとの間で抱えていることなど、問題にはならないほどです。あなたは自 分がなにをできるか、それを自身がよく知っているのですから、それで十分。必要なことは、あなたが選んだ道を知っていて、それを生きるということで、それ が一番重要なことです。もう一度いいますが、あなたは大きなスタジアムで、お母さんとの問題はアリほどの大きさでしかない、ということ。もっとリラックス して、あなたの人生を豊かにして、あなたの魂に語りかけてくるものをエンジョイするべきなのです。

なぜあなたは、前世ではあんなに短い時間しか私と一緒にいなかったの?

     例え短い時間であっても、私はあなたと居たかったし、楽しくやりたかった。楽しくて、シンプルで、誠実な愛情をあげたかった。私には、あな たが純粋な愛情、あなたが信頼できるような愛に欠いているように見えたのです。あなたは、お父さんの飲酒から生じた多くの恐れと生きていたから。

私の今の人生に戻ってきた、あなたの人生とは?

     えーと、それは明らかでしょ? それは許しであり、古い痛みを解き放つことで、自身の立場をはっきりするということよ。私はそれらすべての生きた例なの。私が戻ってきたのは、時間と情況 があなたがそれらのレッスンを学ぶためにちょうど合っていたから。あなたには必要なレッスンなの。

私たちは多くの人生に遡っていくの?

    そう。ずっと昔まで、あなたがチベットで勉強していた若い男の子だったときまでね。私はあなたのことをそのときから知っているの。

私がチベットにいたとき、あなたは何の生き物だったの?

    私はある寺院に住むネズミでした。 そして、あなたが冥想しているとき、傍にいってはくすぐってたわ。それに、あなたが古代の文書を読んでいたときにも、傍にいてあげたの。私たちは、共に何 千年も前にまで遡っていくのだけれど、私はあなたを手助けする主要なガイドのひとりなのよ。

あなたにとって、それは何?

    私だって、みなが持っているものを欲しているのよ。深い結びつきと愛情よ。